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気付かれない知的障害者、反省以前の少年

 この本は医療少年院で勤務した著者がその経験を踏まえ、非行を繰り返す少年の特徴や性質、どうすれば更生できるのかを述べています。こうした少年達の中には知的障害を持っている子たちも多く、決して無視できない数となっています。しかしこういった知的障害をもった子達は学校や親にも気付かれないまま最終的に医療少年院に来ることになってしまったのです。著者はこれを「教育の敗北」と断じています。

 また少年時代にすら障害に気付かれずに大人になってしまった「忘れられた人々」がいます。彼らは社会に馴染めないことが多く、引きこもりになったり、犯罪に走ったりするようになります。しかし、そういった人達は小学校のうちから何らかのサインを出しているので、対応しなければならないと述べています。最後には認知機能を高めるトレーニングも紹介されています。



 学校や職場で、知的障碍者とは言わないまでも少し違和感を感じる人はいなかったでしょうか?1950年代の一時期まではIQ85未満が知的障害と定義されていました。そうすると全体の16%が該当してしまって様々な理由から、現在では知的障害はIQ70未満で定義されています。これは全体の2%程となっています。IQ70から84までを現在では境界認知と呼びます。

 つまり、かつては知的障害と認定されていた14%の人達は支援も受けれずに普通に社会生活を送らなくてはなりません。1クラスに5人くらいに当たります。IQ85未満であれば社会生活はかなり辛いといわれます。勉強や仕事ができない、対人関係が上手くいかないなど様々な支障をきたします。そういった人達と接する可能性がある私達も他人事ではないのです。

 著者が少年院で診療していると、聞く力や見る力といった認知能力が弱い少年が多くいたこと。複雑な図形を書き写せなかったり、ケーキを等分できなかったりしたのです。かなり衝撃を受けたと述べています。認知機能が乏しい為に自分のやったことに向き合う力がない、これは反省する以前の問題なのです。

 そういった人達と私達はどう向き合えばいいのでしょうか?残念ながらこの問いに対する答えは書かれていませんでした。子供のうちから認知機能の低さに気付いてあげて認知機能を高めるトレーニングを行わせると書いてありましたが、大人になった人達はどうするのでしょうか?かなりの苦労を強いられながら生活しているはずです。

 単純に「あいつは頭が悪い」「ダメな奴」と切り捨ててしまうのではなく、軽度の知的障害、境界認知のことを理解することは重要だと思います。しかし特に仕事を一緒にしていればミスやトラブルが起きやすいし、扱いにも慎重にならざるを得ません。周りはかなりのストレスとなるでしょう。

 大人子供関係なく認知機能を高めるトレーニング施設みたいなものはないのでしょうか?職業訓練はありますが、そもそも認知機能が弱ければほとんど身に付けられないでしょう。国や自治体が支援制度を作ってほしいですね。