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イノベーションと叫ぶ前に理解しなければならないこと

 今日、私達は巨大な工場や発電所交通機関など複雑な機械システムの中で生きていて、そのオペレーターに命を預けている状態です。

 例えば飛行機のパイロットや電車やバスの運転手、ガス会社の作業員といった人達で、彼らがいるからこそ私達は便利な生活ができていますが、反面そういったシステムが一度事故を起こせば多くの人命が奪われ悲惨な結果になる可能性があります。

 この本ではこれまでに起こった多数の悲惨な事故の事例を紹介されていて、事故が起こるまでの経緯やなぜ事故が起こったのか?防ぐことはできなかったのか?を検証しています。


 この本はエンジニアや社会インフラ関連の仕事に就かれている方。その他にも人命が掛かっているまでいかなくても、ミスをすれば多大な損害が出るといった状況の人達は一度読んで欲しい本です。

 本で紹介されている事例は、ほんの些細なミスが大きな事故に繋がっていることが多いのですが、これは大なり小なり似た経験した人は多いと思います。そして事故というのは起こる前触れが存在します。

元国家安全運輸委員会航空安全局長のC.O.ミラーは、「前兆の無い事故は起こったことがあるのか?」という問いに答えて「基本的には皆無だ」と語っている。 p316より

 つまり事故というのはほぼ前触れがあり、事故原因が分かるというのです。事例にも原因が書かれていて、たくさんの事例に触れてそれを自分達の立場に置き換えれば事故に繋がる作業やシステムの不備などの危険に事前に気付くことができるかもしれません。

 その事故原因の一つに「盲点をもったシステム」というものがあります。

盲点をもったシステムとは、内部の動きが運転員の視界から隠されているかのようなマシンのことであり、人間は精神的圧迫を受けると飛躍した結論を出す傾向が強いのにもかかわらず、それを克服できるほどの単純明快さをもった計器が備わっていないマシンのことである。 p75より

 これは1989年にブリティッシュ・ミッドランド航空ボーイング737のエンジントラブルの墜落事故で乗員乗客126名のうち乗客47名が死亡した事故原因です。

 ボーイング737の両翼にエンジンが2つ付いていて、その内の1つが故障して騒音と振動が起こりました。機長の目からはエンジンを確認できません。右のエンジンの出力をしぼってみると振動と騒音が止んだので右のエンジンが故障したと判断して右のエンジンを止めました。しかし、故障していたのは実は左のエンジンで着陸直前に粉々になってしまいました。飛行機は着陸直前で何もできずに墜落してしまいました。

 この事故の原因は、コックピットのディスプレイにエンジンの振動計があり、それを確認しておけば左のエンジンが故障していることが分かったそうです。しかし振動計はとても小さくて目の届きにくい位置にあり、特にアラームが鳴るといった仕組みではなかったのです。本来であれば客室乗務員にエンジンの目視確認を依頼したり、振動計を確認することも可能でした。ただエンジントラブルが起こり精神的に追い詰められて冷静な思考ができなくなっていました。

 この飛行機のシステムは必要なものが分かりづらい場所にあり、機長達も精神的にひっ迫して、それを確認する判断力も無くなっていました。もし振動計が目に付きやすい場所にあれば事故は防げたでしょう。

 科学技術はどんどん進歩していますが、こういった事故は現在進行形で起こっています。恐らく事故をゼロにすることはできないのはないかと思います。けれどシステムの設計者やオペレーターによって起こりそうな事故が未然に回避されているのも事実です。

 現場にいない所でイノベーションを起こせ、みたいなという人もいますが、こういった悲惨な事故からの学びや、日々のオペレーションの上に安全なシステムが存在するということを忘れてはいけませんね。